29歳で、金融系の営業職を辞めた。そのあとは、結婚して、専業主婦になろうと思っていた。キャリアウーマン志向ではない私が、家庭に入ることを見据えて、次に選ぶ仕事。
あれ?それってもしかして、私の人生「最後」の仕事……?
――東京都世田谷区にある「保育ルームCocon(ココン)」。Coconは、株式会社Coconとして主にチャイルドマインダー請負事業を展開しています。
スタッフは全員、チャイルドマインダーの有資格者。
そんなCoconの代表を務める鈴木麻友子さんは、チャイルドマインダーの資格を取得して、「人生が大きく変わった」と話してくれました。

株式会社Cocon代表取締役・鈴木麻友子。2012年夏にチャイルドマインダーの資格を取得。同年11月に株式会社Coconを設立。2013年6月、保育ルームCoconを東京都世田谷区にオープン。チャイルドマインダーのほかに、保育士、食育指導士の資格ももつ。
自宅などを使って開業する人もいれば、利用者の家庭に訪問したり、保育ルームに勤めたりする人もいます。
くわしくは、以下の記事をご覧ください。
私が本当にやりたいことって何だろう……?結婚を意識してからはじめて見えた、「自分が本当にやりたい仕事」
鈴木さんは、もともと保育に関するお仕事をしていたんですか?
鈴木:
いえ、前職は金融系の営業職でした。チャイルドマインダーという資格も知らなかったです。
大学の専攻も法学部だったので、保育の世界に関わったことはなかったですね。
―そこからどうしてチャイルドマインダーというお仕事と出会ったんですか?
鈴木:
29歳で前職を辞めたんですね。もともと、私はバリバリ働くようなキャリアウーマン志向じゃないので、結婚して家庭に入ろうと思ったんです。でも、家庭に入る前に転職も考えていました。
そのとき、「結婚して家庭に入るなら次が最後の仕事か」と思って、ふと気づいたんです。
私、「人生で最後のもの」を選んだことないな、って。
だから、「せっかく次が最後の仕事になるんだし、自分が本当にやりたい仕事をして終わろう」と思ったんです。
私は、本当は何の仕事がしたいのか? 何に挑戦したいのか?
それをきちんと考えよう、と。
―なるほど……自分自身と向き合う時間ができたんですね。
鈴木:
そうです。それで、ふっと頭をよぎったのが「家庭の問題」だったんです。
私は14歳から、家庭内不和とか虐待とか、家庭の問題に強く関心を持っていたんですね。
個人的に「家庭の問題」に関する本をずっと読んで、勉強してました。
働いてからもその勉強は続けてて、ずっと関心を持ち続けていた問題だったんです。
そうしたら、「そういえば、人生で唯一継続してることってそれだな」って、気づいたんですよね。
じゃあ、この機会に私の知識を活かせる「家庭」に関する仕事はないかな、と。
探しているうちに、チャイルドマインダーの資格と出会ったんです。
―保育士ではなく、チャイルドマインダーを選んだんですね。
鈴木:
当時は、「29歳で保育士を取るのは難しいなー」と思いましたね。養成学校に入ったらすぐに働けないし、学校に通える時間もない。
でも、チャイルドマインダーだったら今からでも、私でも始められる!と思ったんです。
なので、資格を取ったらすぐに仕事に繋げようと思ってました。開業することも、最初から見据えていましたね。
「お母さんたちが一番助けてもらいたいときに、手を差し伸べたい」ー病児保育とマザーリングのサービスに込めた思い
Coconでは、「病児保育」や出産直後のお母さんをケアする「マザーリング(※)」も提供していますね。これってチャイルドマインダーの保育ルームとしては珍しいと思います。
鈴木:
こういったサービスを始めようと思ったのは、お母さんたちが一番助けてもらいたいときに、手を差し伸べられる存在になりたいと思ったからです。
病気で弱ってるときって、気心が知れてる人に看病してもらう方が安心しますよね。
それって、保護者の方も子どもたちも一緒なんじゃないかな?と。
子どもが病気のときは保護者の方も看病で疲れてるだろうし、お子さんも甘えたいだろうから、そこをサポートしたいって思ったんです。
―一番助けてもらいたいときに手を差し伸べたいという思いは、マザーリングも一緒ですか?
鈴木:
一緒です!マザーリングは、出産当日からご利用頂けるんですが、退院直後から1週間、毎日沐浴を手伝いに行ったこともありますよ。
産後の肥立ちって人それぞれだから、沐浴を重労働に感じるお母さんもいるんですよね。
でも、お父さんが早く帰ってこられなかったり、頼りたい実家が遠かったりするご家庭もあって。
「周りに頼れる人もいない、どうしたらいいのか分からない!」っていうお母さんたちを、少しでも助けたいと思って始めました。
「単身赴任で家に帰れないから、色々とサポートして欲しい」というご依頼をお父さんから受けたこともあります。
私たちは「子育てのパートナー」! Coconで働くチャイルドマインダーが徹底していること
Coconで働くチャイルドマインダーさんたちの「スタッフ心得」は?
鈴木:
「子育てのパートナー」として、ご家庭に寄り添うことです。
ご家庭と密に関わり、子育てについて一緒に考えられる存在として手を取り合うことを信念にしています。

Coconで働くチャイルドマインダーさん。「子育てのパートナー」として、密な保育を行います。
―鈴木さんはずっと「家庭の問題」に関心があったんですよね。チャイルドマインダーとして働くなかで、人に相談しにくい悩みを抱えたご家庭に直面したことはあるんでしょうか……?
鈴木:
いっぱいありますよ。大なり小なり、そのご家庭なりの悩みや事情はあります。
親子間でも夫婦間でも、些細なことが積み重なって爆発してしまうケースってありますよね。
その些細なことが起きたときに、すぐにサポートできるパートナーシップを築くこと。
Coconが、保護者の方にもお子さんにも安心してもらえるクッションのような存在であり続けることは、常に心がけてます。

―なるほど。難しいケースに当たることもあると思いますが、 Coconがクッションのような存在であり続けるために、どういったことを実行していますか?
鈴木:
とにかく話を聞くこと。そしてこちらからも話すことですね。
例えば、教育方針に関することは、まず保護者の方に「どうされたいですか?」と聞きます。そのうえで、Coconでのお子さんの様子をお伝えしつつ、必要であれば提案をする。
教育方針に関しては、保護者の方が主体であることは変わらないんですが、コミュニケーションを密に取って、一緒に子育てをしていきたいという思いは一貫してますね。
あとは、スタッフ間でこまめに情報共有をすること。
「このご家庭は今こんなご意向がある」といったことは、スタッフ全員が把握している状態を常に保つようにしています。
チャイルドマインダーに必要なスキルは、「観察力」!
鈴木さんが考える、チャイルドマインダーに不可欠なスキルはなんですか?
鈴木:
「観察力」です!
お子さんの些細な変化や、わずかな成長を見逃さないことですね。
それと、「アンガーマネジメント」です。
でもこれも、結局は「観察力」と繋がるんです。
というのも、平常心がブレると「観察力」も鈍ってしまうので。
そうなると、大事な成長の場面を見逃すかもしれない。
―些細な変化でも、その子にとっては100段ぐらい階段をのぼったような成長が起こっているかもしれませんしね。「観察力」がなかったら、保護者の方やスタッフに伝えられない。
鈴木:
そうなんです!「観察力」をもってご家庭に寄り添い、子どもたちの成長を見守るのが私たちの役割だと思ってます。
社会の循環をよくしていくには、自分ひとりの力だけでは難しい。伝えることで、支援の輪を広げたい
鈴木さんは、「家庭の問題」をずっと勉強していたということですが、Cocon以外の場所で、知識や経験を活かす機会はありますか?
鈴木:
最近は、「伝える活動」に意識が向いてます。
例えば、高校生向けにチャイルドマインダーの職業体験ができるボランティアを開いたり、保育士さんの研修会に参加したり。
あと、昨年度は世田谷区のファミリーサポートさんのフォローアップ研修の講師を、1年間任せて頂きました。
―すごいですね!保育に関する活動を精力的に行っていらっしゃる。
鈴木:
ファミリーサポートさんの輪って、すごく大きいんです。
そこに所属している方々が、「こんな形でサポートできるよ」って誰かに伝えることができれば、それがまた誰かの耳に入り、また伝わる。
支援の輪は、そんなふうに広げることができるんです。
そこに気づいてくれる人が増えれば、社会全体がいい方向に進むし、いい循環が生まれると私は思っています。

鈴木:
例えば、私ひとりがフルパワーを使って行動しても、それって社会全体から見たらほんのわずかなことしかできてないんですよね。
やっぱり、ひとりの力ではできることに限界があります。
保育を通じて社会全体がよくなることが本来の目的だって考えたら、伝えることで協力者を増やしていくことの方が、問題解決に繋がる力は大きい。
そういう考えが、最近は強くなっています。
―保育に関することや育児サポートが、もはや鈴木さんのライフワークになっている印象を受けます。
鈴木:
そうかもしれないです。
チャイルドマインダーの資格を取ったことで、私の人生は大きく変わったと思っているので。影響はかなり受けていますね。
多様化していく女性の働き方。チャイルドマインダーは、働くママたちのニーズに応えられる仕事!
チャイルドマインダーの資格を取りたい人たちに向けて、鈴木さんが伝えたいことは?
鈴木:
資格を取るのって、お金も時間もかかりますよね。私は、その心構えが全てだと思うんです。
その心構えをもった時点で、その方は子どもの成長やご家庭に寄り添える、責任感のある方だと思います。
これからどんどん、女性の働き方って多様化していく時代になっていきますよね。
そうなると、既存の公的なサービスだけではまかないきれない部分がきっとたくさん出てきます。
なので、チャイルドマインダーという仕事がこれからの社会に必要とされる場面は増えると思うんです。
潜在的なニーズが大きい仕事だと、私は考えてます。

鈴木:
チャイルドマインダーはひとりで仕事をしている方も多いので、デビューに踏み出せない方も結構いらっしゃるんですよね。
でも、「資格を取りたい」って心構えがある時点で、責任感のある方でしょうし、きっと大丈夫です。
どうしても不安だったら、Coconでデビュー前に実習を受けることもできます。
お問い合わせフォームから実習のお申し込みを受け付けているので、お気軽にいらしてください。一緒に働いてくださる方、絶賛募集中です!
チャイルドマインダーの資格を取ったら、ぜひ社会で活躍して頂きたいなと思います。
資格を取得したことが、思わぬ花を咲かせることもあるのかもしれません
「結婚」という人生のひとつのターニングポイントを考えたら、その延長線上に「仕事」が見えてきた。
でも、いざ振り返ってみると、「仕事」は「結婚」までの繋ぎではなく、今や自分のライフワーク、人生を支えるものになった。
そのきっかけが、チャイルドマインダーという資格を取ったこと……。
自分の人生に起こった大きな変化については、「全く想像していなかった」と、鈴木さんは取材中に語ってくれました。
しかし、保育や社会に対して思うことを語る鈴木さんの口調や表情は、真剣そのものでした。
はっきりと自覚しているわけではないけれど、自分の奥底に、思わぬ興味関心の種は眠っているのかもしれません。
鈴木さんは、その種を見つけた方々のひとりです。
資格を取ったことで、種に水を与え、凛とした花を咲かせました。
――過去や「思い」と深く対話することが、自分で自分の人生を生きる、強い力を生むことに繋がるのかもしれない。
鈴木さんのお話を聞き、自分らしい人生を力強く生きるヒントが伺い知れた機会になりました。
Coconのホームページはこちらから。
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女性の自宅開業にもチャイルドマインダーはぴったりです。