「ちょっと喉が痛いなあとか、季節の変わり目で疲れてるなあとか。そういったなんとなくの不調を感じるときこそ、薬膳の出番です。薬膳って、実は家庭でも手軽に取り入れられるもの。女性の体質改善に役立ちますし、生活の知恵として活かせるんです」
「薬膳」や「漢方」の分野で、多くの女性から支持を受けている杏仁美友さん。
女性に多い病気ではないけれどなんだか不調な状態「未病」を改善したい人や美容・健康の維持に関心がある人に向けて、薬膳や漢方のお役立ち情報を発信したり、資格講座を開講したりなど、薬膳や漢方の素晴らしさを伝え続けています。

病院で漢方が処方される機会があったり、飲食店の看板やメディアなどで薬膳の文字を見聞きするシーンが増えたりなど、ひと昔前に比べ、薬膳や漢方は珍しいものではなくなっています。
しかしながら、杏仁さんは10年以上前に薬膳や漢方に出会い、その後本格的に勉強して資格を取得。現在では、その道のプロとして活躍しています。
「薬膳や漢方をもっとカジュアルに、日常に取り入れてほしい」。
熱く語る杏仁さんに、薬膳や漢方を学ぶメリットや薬膳が女性にオススメの理由についてなど、気になることを聞きました。
杏仁美友。「一般社団法人 薬膳コンシェルジュ協会」代表理事・「国際中医師」・「中医薬膳師」・「漢方&薬膳アドバイザー」。薬膳に関する資格講座の運営、執筆、メニュー監修、講演会などを通じ、薬膳や漢方の普及活動を精力的に行う。著書に『ゴジベリーで老けない体をつくる!』『女性の悩みを解消する うつくし薬膳』など多数。 モットーは「こころに漢方を、くちびるに薬膳を」。
アイキャッチ画像撮影:南雲保夫(フォトグラファー)
長年の悩みだった生理痛が薬膳・漢方で改善「人生が変わるほどの衝撃でした」
-杏仁さんと薬膳や漢方との出会いは、何がきっかけだったんですか?
杏仁:
私は高校生のころからひどい生理痛に悩まされていたんです。
28歳で妊娠して、出産後は一時的によくなったんですけど、しばらくすると痛みがぶり返してしまって。
「ずっとこの痛みと付き合わなきゃいけないのかな?」と思いました。それで、30歳のときに漢方薬局に行ったんです。
女性の漢方医が問診してくれたんですが、大きな衝撃を受けまして。
-といいますと……?
杏仁:
問診で聞かれたのが、食生活のことだったんですね。
「なんで食事のことを聞くのかな?」と不思議だったんですが、「陰陽五行説」の理論とか、臓器の働きに対する考え方とか、中医学(※)に関する話を聞きまして。
こんな医学があるのか……と衝撃を受けました。この理論に則って食事を改善したり漢方を飲んだりすれば、生理痛も治るかも、と思ったんです。

食生活が体と心のベースだったと気づき、中医学の世界にハマっていく!
杏仁:
1年ぐらい経ったあるとき、ふと気づくと生理痛がラクになってたんですよ。
やったことといえば、食生活の見直しと漢方の服薬です。
この体験がきっかけで、食生活は体と心のベースなんだと気づきました。体質が変わったことに感動してしまって。
-その衝撃が現在のお仕事に繋がったのでしょうか……。
杏仁:
体質改善がきっかけで薬膳や漢方のことを伝える人になりたいと思ったので、それこそ人生が変わるぐらいのインパクトですね。それまでは、全然違う仕事をしていましたし。
それから「目指せ中医師!」ということで、中医学を勉強しようと思いました。
でも、当時は今ほど中医学の知名度が高くなかったので、情報が不足してたんです。
そこで、「国立北京中医薬大学日本校」(現:日本中医学院」)の中医薬膳専科コースで、本格的に中医学や薬膳を学ぶことにしました。
子育て・仕事・勉強をこなしながら薬膳の情報も発信
-学校に通いながらお仕事や子育てもなさっていたんですか?
杏仁:
そうですね。家族の協力もあり、なんとか3つをこなしていました。
大変でしたが、中医学や薬膳のことをたくさん勉強したかったし、本当に面白いと思ったので、どんどん知識を吸収したかった。それで、そのころメルマガを始めまして。

杏仁:
授業でもらった資料を見ていたら、「薬膳ってこんなにシンプルな材料から作れるんだ」って意外に思ったんです。
手軽に家で作れる材料ばかりだ、って知って。
書くことによって知識を定着させる目的と、薬膳で健康になる方法をほかの人にも伝えたいという目的で、メルマガを書き始めました。
-今のお仕事の原型かもしれませんね。
杏仁:
薬膳や漢方って、本当に日々の生活に役立つんです。
でも、それを知っている人は少ない……。
だから、「実は薬膳って身近な食材で作れるし、日常生活に取り入れられるほどカジュアルなものなんですよ」ということを伝えたかったんです。
転機は学びとともに!通学しながら薬膳・漢方の仕事をスタート
-メルマガを始めたころには、薬膳に関するお仕事をしようと考えていたんですか?
杏仁:
完全に「薬膳のことを仕事にしよう」と思ったのは、それよりちょっと後かな。
国立北京中医薬大学を卒業した後、別の学校に入ったときですね。もっともっと中医学を勉強したかったんです。
-ものすごい情熱ですね……!
杏仁:
はい(笑)。「遼寧中医薬大学付属日本中医役学院」に3年間通いました。国際中医師コースを専攻して、もっと深い学びを得たかった。
杏仁さん特製の「薬膳シュウマイ」。とても美味しそうです。
-そちらの学校に通い始めたときに、現在のお仕事をしようと?
杏仁:
そうですね、もう決めてました。
そうしたら、遼寧中医薬大学を卒業するころ、仕事の依頼がきたんです(笑)。
-えっ!なんてタイムリーな。
杏仁:
びっくりしたんですが、私の薬膳メルマガを読んだ出版社の編集者が「本を出しませんか?」って声をかけてくれて。
ほかにも、Webメディアでライターとしてお仕事を依頼されたり、少しずつ仕事の依頼がくるようになりました。
「私で大丈夫かな?」と不安になったこともあったんですが、やっぱり薬膳の素晴らしさを伝えたいって思いが強くあったので、通学しながら仕事を始めました。
女性はライフステージによって体質が変わる。だからこそ薬膳や漢方を日常に
-杏仁さんは執筆以外にも「薬膳コンシェルジュ」の資格講座も主催しています。受講者は女性が多いそうですね。
杏仁:
女性が9割です。その受講生の半分が体調管理のため、もう半分が仕事のスキルアップのために来た、という印象ですね。
-仕事のスキルアップというと、どんなお仕事をしている人が多いんですか?
杏仁:
美容・健康関連のお仕事をしている人が多いです。
漢方薬局を開きたいという人もいますし、薬剤師さんもいますよ。
あとは食育のお仕事をしている人など、保育や教育に携わっている人も。モデルさんが来ることもありますね。
-幅広い分野の人たちが薬膳の知識を仕事に役立てているんですね。
女性特有の悩みを抱えている人こそ、薬膳を体質改善に役立てて
-では、女性が日常生活に薬膳を取り入れることのメリットはなんでしょうか?
杏仁:
なにかとストレスを抱えることが多かったり、忙しくて睡眠不足になりがちだったり、食生活が乱れがちだったりする現代の女性にとって、薬膳は体質改善に役立ちます。
女性はライフステージとかライフスタイルによって体質が変わりやすいので、女性特有の体の悩みを抱えている人も多いと思います。
そこでぜひ、薬膳の力を活用してほしいです。
-たしかに。女性は年齢や生活によって体質が変化しやすいですよね。
杏仁:
女性は、思春期、妊娠、出産、授乳期、更年期などによって体の状態が変化します。
もっと言うと、女性って月経によって毎月体調が変動しますよね。心の状態も、月経周期に合わせて変動しやすい。

杏仁:
なので、ちょっとした体調の変化があったときや不調が起こったときに、体と心のバランスを整えるためにも、薬膳を食べてほしいんです。
-体と心、どちらの不調も助けてくれるのが薬膳なんですね。
杏仁:
そうです!薬膳って、体と心の安定に役立つ食事なんです。
体の状態がよくなると、心の状態も落ち着きますし、逆もしかり。心の状態がよくなると、体の状態も落ち着く。
月経周期やライフステージ、ライフスタイルによって体と心の状態が変動しやすい女性だからこそ、コンディションの調整に薬膳を活用してほしいんです。
若い人は未病予備軍。もっと薬膳と漢方に親しんでほしい!
-杏仁さんの今後の目標はなんですか?
杏仁:
若い人に向けて、薬膳や漢方を広めることです。それも、男女関係なく。
なぜって、10代~20代は、さまざまな不調を抱える「未病の予備軍」なんですよ。
-なるほど。10代から生理痛に悩んでいる女の子もいますしね。将来、婦人科疾患にかかってしまう可能性もなきにしもあらず……。
杏仁:
はい。だからこそ、大きな病気をする可能性が低い時期から薬膳を日常的に食べて、健康の土台を整えてほしいんです。
薬膳って難しいものじゃないですし、もっと身近で、カジュアルに食べられるもの。
それを若い人たちにも知ってもらいたいと思って、若い人に向けた書籍を執筆しています。

杏仁:
最近は若い女性向けの雑誌でも薬膳が取り上げられたり、漢方カフェができたりと、薬膳や漢方のイメージがおしゃれなものになってきていると感じています。すごく喜ばしいです。
若い人たちがもっと薬膳や漢方に親しんでくれるよう、引き続き頑張ります。
-最後に、資格取得にチャレンジしたい読者に、応援のメッセージをお願いします!
杏仁:
人生って、どこで何が起こるかわからないじゃないですか。
なので、「ピーン!」ときたものに敏感になってみてください。思わぬチャンスにつながったり、成長になったり、ガラッと人生が変わったりするかもしれないので。軌道修正は、後からいくらでもできます。
私も自分で「ピーン!」ときたものに従ってきて来ました(笑)。
以前、カラーコーディネーターの資格を取ったことがあるんです。今の仕事と関係ないように思えるけれど、そこで学んだことが、薬膳のWebサイト作りの配色決めに役立ちました。
だから、無駄なことなんてないんです。
自分の「ピーン!」を大切に、なんでも気軽にチャレンジしてみてください。
女性の体と心がピンチなとき、そっと助けてくれるのが薬膳や漢方
実は今回、取材にあたって編集部が訪れたのは、銀座の「FARMACY’S GINZA」。「漢方ドリンク」が飲める漢方カフェでした。

FARMACY’S GINZAの漢方ドリンク。漢方と野菜や果物、ハーブを融合したメニューが人気です。フルーティーで美味しい漢方ドリンクは若い女性の注目も集めています。
住所:東京都中央区銀座一丁目3番先 北有楽ビル1階 営業:10:00~19:00(不定休)
薬膳や漢方というと、敷居が高いとか、なんだか難しそうな印象を抱きがちだったかもしれません。
しかし、「薬膳や漢方のイメージは変わってきている」と杏仁さんが言うように、ファッション誌で薬膳や漢方の特集が組まれたり、女子会向けの薬膳メニューを提供するお店が出てきたり、FARMACY’S GINZAのようなカフェも出店されたりと、時代も変化しつつあります。
「実は気軽に親しめるんだ」ということが分かってきた今こそ、家にある材料で薬膳レシピを作ったり、サプリメント感覚で漢方を飲んでみたりと、気負わない感覚でトライしてみてはいかがでしょうか?
体と心がピンチなとき、薬膳や漢方は、そっとあなたを助けてくれるでしょう。