小さいころ、夢中になって読んだ「絵本」はありませんか?
絵本は、実に個性豊かなメディア。一冊に込められた物語や世界も多種多様です。
高橋真生(たかはし まい)さんは、絵本の世界に魅了されて、高校の国語教諭や図書館司書を経たあと「絵本専門士」の資格を取得します。
現在はフリーライターとして、絵本専門士の資格を活かしながら、絵本を人に届ける仕事をされています。
高橋真生。絵本専門士。高校の国語教諭、図書館の司書を経てフリーライターに。絵本の「読み聞かせ」、絵本や図鑑の知識を活かした執筆・ワークショップなどを通じ、絵本を普及している。絵本情報メディア『にこっと絵本』編集長。
絵本専門士とは、絵本の高度な知識・技能・感性を兼ね備えた、「絵本の専門家」です。
ちょっと耳慣れない資格かもしれませんね。「どんな資格で、どんな仕事なんだろう?」と気になるのではないでしょうか。
資格のことやお仕事のことについて、絵本専門士として活躍する高橋さんにお聞きしました!
「子どもにどんな絵本を読ませたらいい?」今まで知らなかった親御さんの悩み
―絵本専門士の資格を取ろうと思ったきっかけはなんだったんですか?
高橋:
高校の国語教諭と図書館の司書などを経験したあと、結婚と出産を機にフリーライターになりました。
子どもにオススメの図鑑を紹介する記事を書いたり、お子さんをもつ親御さん向けのイベントで勉強や子育ての話をしたりしているんですが、絵本の相談が多いんです。
―絵本の相談?
高橋さん:
たとえば、「子どもにどんな絵本を読ませたらいいの?」「絵本の読み聞かせ方法がわからない」といった悩みですね。
意外と絵本のことで悩むお母さんって多いんだ、と気づきました。
▲もちろん、ご自身のお子さまにも絵本を読み聞かせているという高橋さん
高橋:
司書をしていたときも、絵本と接する機会はありました。
私自身、本が大好きなので絵本に興味はあったんです。でも、絵本について体系的に学んだことはなくて。
イベントやメールで絵本の相談を寄せられているうちに、「絵本の知識や良さを伝えていきたい」と思い始めたんです。
―お母さんたちの相談と、ご自身の「本好き」が絵本専門士の取得につながったんですね。
「絵本専門士」が絵本好きの仲間との出会いをつなげてくれた
―絵本専門士の資格って、どんな資格なんですか?
高橋:
絵本専門士の養成講座では、絵本の歴史や工夫、それまで気づけなかった新しい考え方を学べました。
絵本って優しいイメージがあるでしょうし、「講座は和やかな雰囲気なのかな?」って思うかもしれませんが、先生たちは熱意にあふれていて厳しいですし、授業の内容も多岐に渡ります。
そもそも、講座を受講するのに条件があります。
・子どもや絵本に関する資格をもっている
・絵本に関する実務を3年以上経験している
・絵本に関する活動を3年以上経験している
・絵本学、児童文学、美術の研究実績がある
―そうなんですね。ちょっと意外でした。具体的には、どんなことを勉強したんですか?
高橋:
授業は、知識・技能・感性の3つに分かれています。
たとえば、「保育や教育の場での絵本との出会いについて」とか「支援が必要な方々への絵本の役割」などを学びました。
絵本を子どもたちに読み聞かせる「おはなし会」のテクニックなども勉強しました。
講義の事前課題や事後課題、修了課題もあります。
▲背表紙に描かれたなにげない絵にも実は意味がある
―なかなか難しい資格なんですね。どんな人が受講してたんですか?
高橋:
図書館司書の方や教育関係の方、保育士さんとか。
私は3期生なんですが、その期の受講生は60人ぐらいでした。
みなさん、本当にいろいろな経験を積んでいる人ばかりです。
受講しなかったら出会えなかったような仲間と出会えたので、たくさんのことを学べましたし、知らなかった絵本の情報も教えてもらいました。
―自分と同じ絵本が好きな仲間と学べる環境は刺激も多そうですし、勉強していて分からないことを共有できることもありそうですね。
高橋:
はい。だから、絵本が好きな人ともっともっとつながりたいと思ったんです!
それで『にこっと絵本』というWebメディアを立ち上げました。
―絵本と人とが出会える場所を作ったんですね。
高橋:
そうです! 『にこっと絵本』は、絵本専門士がオススメの絵本や絵本の楽しみ方を紹介するWebメディアです。
いろいろな絵本と出会うことができますから、絵本好きな人は、気軽に遊びにきてくれたらうれしいです。
絵本を届けるのが絵本専門士の役割
―高橋さんが思う「絵本専門士」の役割ってなんでしょう?
高橋:
私は絵本の魅力を紹介する記事を書いたり、ワークショップに参加したりして絵本を届ける活動をしていますが、どんな方法を選んだとしても、絵本専門士の基本的な役割は、「絵本を人に届けること」と思っています。
それも「誰に?」「どんな絵本を?」「どうやって届ける?」ということを、丁寧に考えます。
―資格の勉強をしてみて、絵本のどんな部分を学ぶことができたと思いましたか?
高橋:
絵本は子どもが読むものというイメージもあるかもしれませんが、実はすごい可能性を秘めたもの。
絵本一冊がもつ影響力って、とても大きい。絵本について改めて学んでみて、そのことが強く印象に残りました。
絵本を読むことで世界とつながれる?
―絵本専門士としてお仕事する上で、意識されていることなどはありますか?
高橋:
私は、「みんなの毎日が楽しいといいな」と思って仕事をしています。
「毎日同じことの繰り返し」と感じる人が意外と多い、ということに驚いたことがあって。
そのために、私ができたのが、ことばに関するサポートでした。
自分の思いや考えをつかむには、ことばが必要ですよね。それから、調べたり表現したりするのにも。
だから、絵本を読むことを通して、ことばを味方につけて、知ることや学ぶことを楽しんでほしいんです。
全く知らないことに興味を持つのは難しいけれど、少しでも知っていたら、はっとすることもあるでしょう?そういう形で心が動かされるのもいいのかなと思っています。

高橋:
絵本には、ことばや絵、世界各国の文化など、毎日を楽しくしてくれるものがたくさん詰まっています。
大げさな表現かもしれませんが、私は、絵本は、自分と外の世界をつなげてくれると思っているんです。
―絵本が自分と世界をつなげてくれる?
高橋:
つまり、自分以外の人がどんなことを考えているのか?
自分の知らない場所でどんなことが起こっているのか? が分かるというか。
「世界は広いんだよ」ってことを教えてくれるんです。
▲外国の絵本の読み聞かせを通じて「●●って国はどこ?」とお子様からたくさん聞かれるようになったとのこと。いつでも世界の国を教えられるように、ご自宅には地球儀が。
―絵本を通じて、世界は広いってことが分かるんですね。
高橋:
そうです。世界にはたくさんの人がいて、ドキドキすることもたくさんある、それを知っているだけでもいいんです。
それに絵本は、一緒に読んだ人をつなげてもくれます。親と子、おじいちゃん・おばあちゃんと孫、友達……というように、人と人とをつなげられるメディアなんです。
そんなふうにいろいろなものと出会っていたら、きっと毎日って楽しくなると思っています。
ここで、高橋さんがオススメの絵本を教えてくれました。
▲『おやすみなさいフランシス』(作: ラッセル・ホーバン 絵: ガース・ウィリアムズ 訳: 松岡 享子,福音館書店,1966年)
色んなことが気になって、寝付けない女の子が、お母さんやお父さんにやさしく声をかけられながら、眠りにつくまでを描いた絵本。
最近、有名女優さんがエッセイで紹介したことで話題になっているという一冊。
「読んだ人が皆、主人公が自分とそっくりだと言うんです。思わず自分を投影してしまうというか。『眠れないなあ』という誰にでも起こる内容を色んな情景を使って描いていて、大好きな絵本です」と、高橋さん。多くの人の共感を集める絵本です。
知識を身につけ感性を磨くことが好きな仕事をするヒントに
―絵本専門士として活躍する上で、意識されていることなどはありますか?
高橋:
絵本専門士は、絵本を誰に、どんなふうに届けたいかによって、活動の内容も方法も変わってきます。
―なるほど。人によって、活動の仕方が違うんですね。
高橋:
そうです。子どもをターゲットに活動している人もいますし、大人に絵本を広めたいという人もいます。
私は主に執筆をしていますが、活動の方法は本当に人それぞれ。
自分の専門分野と紐づけて活動している人が多いと思います。

―「本が好き」ということで、高橋さんはご自身の好きなことを仕事にしたんですよね。最後に、好きなことを仕事にするには、どんなことが大事だと思うか教えてください!
高橋:
さっき、私は「みんなの毎日が楽しいといいな」と思って仕事をしていると言いました。
それは、自分の想いとできることとを結びつける方法で仕事をしているということなんです。
私もまだまだこれからですが、自分の実現したいことは好きなこととどう絡められるのか、自分の興味があることを深く勉強してみたり、違う業種の人のお話を聞いたりすることを心がけています。
それから月並みですが、「まずやってみる」こと。
動くことではじめて分かることが必ずあります。小さな一歩をばかにせず、大きな一歩を怖がらず、時々休みながらでも、チャレンジしていくうちに、目標に手が届くこともあると思うんです。
私もそんなふうにして、好きなことと仕事をつなげて、幅広く活動していきたいです。
編集者より
ときに真剣に、ときに満面の笑みで、絵本の魅力をいっぱい語ってくれた高橋さん。
高橋さんのお話を聞いて、小さいころなにげなく読んでいた絵本は、自分と外の世界をつなぐものになる、ということが目からうろこの発見でした。
そう思うと、絵本専門士は新しい世界につながる扉を開ける案内人なのかもしれません。
絵本が大好きだった人や、本そのものが大好きな人。絵本を届けることで、人がもつ可能性を広げたい人は、絵本専門士の資格を取得してみてはいかがでしょう?
「絵本専門士」は、保育士のスキルアップに役立つ資格です。詳細を知りたい人は、こちらの記事もご覧ください。